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2020/09/03

消費と生産の道具をスイッチする


 パソコンは情報を生産し、スマホやタブレットは情報を消費する道具。そういうまことしやかな論調がある。ぼく自身もそう考えていたこともあった。だが、どうも、それは逆なのではないかと思うこともある。

オールマイティは意味がない

 仕事にせよ遊びにせよ、日常的にパソコンを使っている方なら、そのほとんどはスマホを併用しているにちがいない。どちらをどんな用途に使うのかは人それぞれだが、入力しやすいキーボードを持つパソコンは、情報の生産には欠かせない存在としてとらえられてきた。
 その一方で、スマホやタブレットは、あくまでも補助的な存在で、パソコンに比べて携帯性に優れていることから、24時間365日、いつでもどこでも身につけて、情報をどんどん消化するために使われてきた。
 だが、パソコンの大きな画面こそ情報の消費に向いている。スクロールしなくても一度に目に入る情報の量は、スマホに比べれば圧倒的だ。多くの情報を一度に表示できるので、見落としも少なく、また、見ようとしていなかったのに目に入る情報は、偶然との出会いも促進し、知識や思考の幅を拡げることに貢献する。もちろん、だから集中できないという意見もあることはある。
 スマホはスマホで、情報の生産には向いていないとされていたが、SNSに書き込まれる情報の多くはスマホで入力されている。当初は想像だにしなかったのだが、パソコンのキーボードよりも、スマホのフリック入力の方が高速に文字を入力できるという世代も登場しているらしい。となれば、24時間365日、いつでもどこでも情報を生産できるスマホの存在は、もはや情報の消費にこそ向いているとはいえなくなってしまう。
 タイトルで言っておいてなんだが、役割を明確にスイッチする必要はない。どんなデバイスでもできるようにしておくことをめざそう。そのためにもクラウドとの親和性は重要だ。「この機器だけで十分」と満足してはいけない。

パソコンの再発見

 コロナ禍によって、パソコンの復権が話題になることが多い。調査会社のIDC Japanは2020年第2四半期の日本国内におけるトラディショナルPC市場実績値を発表、法人市場が前年同期比17.0%減の237万台、家庭市場は同比40.7%増の159万台、両市場合わせて同比0.7%減の396万台になったという。今年は、かなりの落ち込みが予想されていたが、昨年同期とほぼ同じ出荷数が維持できたことになる。
 法人市場では、在宅勤務があまり進んでいなかった中小企業を中心にノートブックパソコンの購入が進み、また、GIGAスクール構想向けのノートブックパソコンの出荷が法人市場の底上げに貢献したようだ。
 家庭は家庭で子供向けにPCを購入する動きが活発になった。中小企業を中心に在宅勤務で使うパソコンを家庭で購入するための補助金を出す企業もあり、家庭で仕事をするためのパソコン需要が急拡大したそうだ。
 これから、いろんなシーンでパソコンの存在が再発見されていく。ちょっと前には、もうパソコンはなくなるんじゃないか、仕事はともかく家庭にパソコンはいらないんじゃないかなどと思われていた気配もあったが、どうやらそうはならないようだ。
 日本は世界の先進国に対してIT後進国だとされている。そもそも家庭において子どもが自由に使えるパソコンがなかったり、ビジネスの現場においても普段はスマホでバリバリとクラウドを駆使しているエンドユーザーが、トラディショナルなセキュリティポリシーに縛られて、生産性を落としていたりもする。
 在宅勤務を強いられ、仕方がなく、自宅の古いパソコンを使わざるをえなくなり、やってみたらそれなりに作業ができたことに驚き、これだったら、新しいパソコンを買うのも悪くないなと考えるようになった方も少なくないのではないだろうか。
 少なくとも今、パソコンに向かう気持ちにちょっとした変化の兆しが出てきたことはまちがいない。個人的には、驚くような緻密な作業をスマホでこなす脅威的なスキルを、パソコンを使うときにも発揮するような新人類が、世の中を大きく変えるのではないかと考えている。