2020/11/02

文書のポータビリティ


 インターネットには貴重な資料があふれている。勉強のためにも、仕事のためにもなる文書がいっぱいある。ところが、パブリックにリリースされている文書の多くがPDFだから、それを読むのはたいへんだ。

誰でも読めるPDFだが

 今のところ、PDFは誰でも読める文書のフォーマットとして、誰もが知る存在で、およそ、ほとんどすべての機器で表示することができる。だからこそ、官公庁や各企業が提供する公式な文書、コンテンツ類はPDFで公開される。

 これはこれでいいのだが、困ることもある。PDFを紙の電子化のためにだけに使っていることだ。つまり、A4タテの文書を電子機器上で再現するためのものにしかなっていない。これではA4タテより小さな表示領域しか持たない機器で表示した場合、1ページを視認性を確保した上で表示して読み進めるのにスクロールが必要になる。読みやすい文字サイズで表示するには横スクロールも求められるかもしれない。小さな画面でA4タテ前提の文書を読むのはたいへんだ。13.3型スクリーンのモバイルノートパソコンでもつらい。文書を読む効率ががた落ちだ。

 たとえば経済産業省が2018年の9月に公開した報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』は、サマリー版、PowerPoint版、本文版の3種類が提供されている。また、内閣府は各種の統計情報・調査結果を提供しているが、地方公共団体消費状況等調査などをみても、フォーマットはすべてPDFだ。

 ただし数値データなどはExcel形式で提供されている。数値データはグラフ化したり、分析に使ったりというデータの利活用が考慮されているのに、文字中心のコンテンツはそれができないのはもったいない。

 平井卓也デジタル改革相と河野太郎行政改革・規制改革相は、デジタル化の推進のためにさまざまな改革を実践中だが、こうしたことは気にならないのだろうかとも思う。

 

PDFを作ったオリジナルファイルを公開してほしい

 PDFを作ったということは、何らかのアプリを使って元となるデータを作ったということだ。気になったので、上記PDFを調べたみたら、そのプロパティを見ると、経済産業省の上記報告書も、内閣府の統計も作成アプリケーションは「WordAcrobat PDFMaker17」となっていた。つまり、Wordで書いた文書をPDFに変換しているようだ。PDFMakerは、Adobe Acrobatに付属するユーティリティで、現行バージョンは20だから、ちょっと古いバージョンを使っていることがわかる。

 政府でこうした文書の作成に携わっている方々の名誉のために言っておけば、これらのPDFはとてもきちんと作られている。しおりも適切に設定されているところを見ると、Wordでのオリジナル作成時に、きちんとスタイル機能を駆使していることも想像できる。また、PDFのズーム機能による折り返し表示も、おかしくなるページは散見されるものの、できるようになっている。スマホのAcrobat Readerでのリーダー表示も可能だ。そもそもセキュリティ設定はなく、印刷はもちろん、文書の変更、内容のコピーなどなど、あらゆることを無制限にできる体裁だ。工夫次第で読みやすくはできるのはありがたい。

 PDFでの提供は、改ざんを防止するという目的もあるが、官公庁コンテンツではそうした目的では使われていないようだ。もしそうなら、数値中心の文書などはExcel形式のデータのままで提供されているのだから、文字中心の文書についてもWord形式のままで提供してくれれば、どんなにポータビリティが高まるか。必要なら、自分でPDFにするだけだし、Wordを読めない人のためにPDFも併せて公開すればすむ話だ。

 Wordの文書のままであれば、読者となるエンドユーザーは、自分の好きなフォーマットに整形して中味を読むことができる。機器を問わずに読みやすい体裁で表示ができる。A4タテのページサイズの呪縛から逃れられるのだ。文字サイズも各行の折り返し位置もフォントも自由自在だ。とにもかくにも文書のポータビリティの一歩は、用紙サイズからの脱却だ。リーダーアプリがもっと賢くなればいいのだが、できることから始めてほしい。

 デジタル化推進に向けて、これからも国から多くの文書類が公開されるだろう。貴重な税金で作られるこれらのコンテンツが、より多くの人の役にたつように工夫してほしいものだ。